「食肉産業の価値を高めたい」と語る肉インフルエンサーの素顔|食肉通信社取締役『山内ひろき』さん

 

大阪のおいしい焼肉店を食べ歩く私キタメシが、和牛に携わる人へのインタビューを通して和牛を勉強する企画「和牛を学ぶ」がスタート。

 

第一弾として取材にご協力いただいたのは、食肉通信社の取締役であり、Instagramのフォロワー1万3千人超のインフルエンサーでもある山内ひろきさんです。

 

「食肉産業の価値を高めたい」と語る“肉インフルエンサー”の素顔

食肉メディア『食肉通信社』で取締役として働きながらフォロワー1万3千人超の“肉スタグラム”を運営。あるときは生産地、屠殺場、飲食店で取材をおこない、またあるときはフォロワーを対象とした肉イベントを開催している。

 

そんな“肉漬け”の日々を送るのが山内ひろきさん(インスタグラムのアカウント名は「ひろき」)。ひろきとしてご存知の人はいても、食肉通信社取締役としての顔はあまり知られていないのではないだろうか。

 

今回はそんな山内ひろきさんのインタビュー記事をお届けする。

 

なぜ現在のような立場に至ったのか?
食肉通信社の取締役およびインスタグラマーとしてどんな活動を行っているのか?
そもそもなぜそんな活動をしているのか?

 

さまざまな角度から山内さんを掘り下げていく。

 

そして、その過程で見えてきた和牛の課題や今後の動向も合わせてお伝えしていきたい。

 

関西の肉インフルエンサー『山内ひろきさん』

「関西の肉インフルエンサーといえばひろきさん」

 

関西のグルメ界隈にはそんな通説が広まっている。

 

インスタグラムのフォロワーは1万3千人(2022年5月時点)。フォロワー数もさることながら、注目すべきはその発信内容。1000件を超える投稿欄はおいしそうなお肉で埋め尽くされている。

 

『大阪・兵庫・京都中心に日夜お肉のお勉強』とプロフィールにも書いてあるように、そこで使われているお肉の生産地、運営会社、お店がある地域の特性など、おいしいお店を紹介するだけでなく、見るだけでお肉に詳しくなれる情報まで紹介しているのがひろきさんアカウントの特徴だ。

 

「食肉に関わる仕事をしていて、その広報活動という文脈でインスタグラムを始めました。結果として多くの方に見てもらえるようになりましたがフォロワー様を増やすことが目的ではありません。より多くの人にお肉の魅力を知ってもらうことで食肉業界を盛り上げる。インスタグラムはそんな目標を実現するための一つの手段なんです」

 

平均年齢は70歳オーバー 畜産農家に覚える危機感

“ひろき”さん改め山内ひろきさんは株式会社食肉通信社の取締役という顔もある。食肉通信社は牛、豚、鶏をはじめとする食肉の情報を紙面、Web、書籍など幅広い媒体を通して発信するメディアだ。

 

山内さんは「昔から好きだった」執筆関係の仕事に就きたいという動機で食肉通信社へ入社。主に国産牛に関する情報の取材・記事執筆を担当しつつ、同社の新規事業への取り組みなども評価され歴代最年少で取締役に昇進した。

 

そういったキャリアを歩む中で、特に牛肉業界におけるさまざまな課題が見えてくるようになったという。

 

「畜産農家の人手不足は深刻です。中でも仔牛を育てる繁殖農家の数はどんどん減っている。繁殖農家の平均年齢は70歳を超えるというデータもあります。そんな高齢化に加えて、牛をゼロから育てる繁殖農家の運営は高度なノウハウと膨大な初期投資が必要なため新規参入する人がなかなかいない。このままだと10年後、20年後の日本の牛肉文化はどうなっているのか分かりません。たくさんある課題の中でも喫緊なのがこの繁殖農家の人手不足だと思っています」

 

同じ畜産農家でも仔牛の生産を担当する「繁殖農家」とそこから牛を育てていく「肥育農家」では役割が大きく違う。

 

繁殖農家の場合は出産リスクなど子牛ならではの管理の難しさがあり、長期に渡って収益が見込めないなど黒字化までの道のりが険しいことから新規参入に乗り出す人がほとんどいないという。

 

近年、大規模な肥育農家を運営する事業者が資産を投じて繁殖農家にチャレンジする流れが生まれつつあるが「まだまだ多くの繁殖農家が必要とされている」と山内さんは言う。そんな深刻な課題を解決するきっかけの一つとなり得るのが、和牛の輸出だそう。

 

「菅義偉前首相ら行政と民間各社が農林水産物・食品の輸出拡大を推し進めてくれたおかげで、新型コロナ禍でも食肉の輸出額は落ちることなく、むしろそれまでより大きく上昇しました。この結果は、日本の食肉が海外で揺るぎない人気を誇っている証拠です。中でも日本で育った和牛の需要はとてつもなく高い。こういった取り組みをメディアとして後押しすることで食肉産業を盛り上げていくのが食肉通信社の使命であり、僕の使命でもあると思っています」

 

課題の解決につながる 本質的なストーリーを

“いいものを安く売る”安売り文化の根強い日本。和牛においては「ここ十数年でかなり高く売れるようになった」と良い傾向が続いているそうだが、深刻な生産者不足を解消できる水準にまでは至っていない。

 

さらなる価格向上が必要とされる現状。そこを打破する策として山内さんが考えているのは生産者のストーリーを伝えていくこと。「A5ランク」「黒毛和牛」といった表面的なものではなく、もっと奥深いストーリーを伝えていきたいと思っている。

 

「肉の味わい、脂の質、育て方、生産効率、月齢、枝肉の大きさ、飼料、血統、アニマルウェルフェアやSDGs。こうした経験や科学的見地、時代性に基づいた研究に生産者の方々は熱心に取り組んでいらっしゃいます。しかし、そういった事実は一般消費者にはほとんど届いていません。A5だから、黒毛和牛だから、と限られた情報の中で牛肉を楽しむしかないのが現状です。このままだと牛肉は、動物の命を頂いているにもかかわらず、工業製品と同じようになってしまいます」

 

そのための活動の一つが個人で運営しているインスタグラムだ。業界内に向けた情報発信が主な食肉通信社としての仕事とは対照的に、業界外を対象とした情報発信を主としている。

 

インスタグラム上での投稿はもちろん、定期的に開催している肉イベントでは対面で和牛の魅力や深みを山内さん自ら伝えている。

 

インスタグラムを起点とした食事イベントを開催している人は他にもいるが、山内さんのソレは一味違う。

 

ただおいしいお肉を食べて楽しむだけではなく、「〇〇さんが育てた〇〇牛です」「こんな独自の飼料を食べて育ったんです」そんなストーリーを伝える会話が飛び交っている。

 

「専門メディアの人間として業界のニッチな課題と向き合いつつ、一般消費者の方々との交流の場も持つようにしています。この活動がどんな成果につながるのかは正直まだ見えていませんが、和牛の本当の魅力を知っている人が、またその魅力を誰かに広めてくれる人が増えれば増えるほど、牛肉業界の課題を解決できる可能性が高まっていくことは間違いない。微力ですが、コツコツ続けていきたいと思っています」

 

食肉産業の価値をさらに高めたい 多様な活動を支えている想い

山内さんの牛肉に関わる活動は食肉通信社へ入社したところから始まるが、そもそもなぜそんなキャリアを選んだのかというと、ルーツは名だたる小説家の文学作品を読みふけった大学時代にある。

 

その熱狂ぶりは「経営学部なのに文学部の講義に潜り込んでました」と言うほどで、いつしか執筆関係の仕事がしたいと強く願うようになっていた。そうして「BSE問題」への関心を契機に食肉通信社へ就職し、今に至っている。

 

昔から好きだった執筆関係の仕事に就き、そこで新たに好きになった食肉の発信活動も精力的に続けている山内さん。これから先どんなビジョンを描いているのか。先ほどの話に出てきたブランディングによる和牛の価値向上か。衰退する畜産文化の再生か。

 

「もちろんそれらも成し遂げたいことの一つです。でも、1番に解決したいことは他にあるんです」。そう言って山内さんは、重みのある言葉と表情で自身の想いを語ってくれた。

 

「食肉産業は、動物の命を頂き、人間に必要不可欠な栄養素を供給する重要な産業であるにも関わらず、長きにわたってその価値は低く見積もられてきました。現代ではそうした問題が表面化することは少なくなりましたが、この令和の時代でも名残りはあります。欧州では食肉産業の職人が高い地位を得ていますが、日本ではまだまだです。和食の料理人やシェフが高く評価されているのと同様に食肉産業で働く人も評価される時代がきてほしい。そんな想いでこれからもいろんな活動を続けていきたいと思っています」

 

食肉通信社の取締役としてだけでなく、SNSをはじめとする様々な活動を続ける山内さん。その熱意と行動は、想いを果たすまで止まりそうもない。(おわり)

 

ひろきさんからキタメシへ

このたびはインタビューありがとうございました。

 

私が初めてキタメシさんを知ったのは2019年あたりだったと思います。

 

「こんな人がいたのか!」と驚きました。インスタグラムで紹介しているのは大阪府内の焼肉店だけ。それも有名店ではなく、知る人ぞ知るお店だけに行き続けてフォロワーが2万人を超えている。

 

大阪でここまで和牛に熱中しているインフルエンサーは他に知りません。一緒に和牛文化の発展に貢献していけたら嬉しいです。

 

和牛の情報を発信する難しさは、やはり“知識の正確性”にあると思います。

 

和牛というものが日本固有の品種として確立されてからまだ100年も経っておりません。だからこそ、特に科学的視点で見ると未解明なことがまだまだ数多く存在しています。

 

和牛に携わっている人にとっても分からないことはたくさんある。私自身も常に学びの日々を送っています。

 

例えば「A5等級」という評価。これはお肉のおいしさを表しているものではありませんが、“おいしさの基準”としてのイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。

 

近年は筋間脂肪内の「オレイン酸」や「モノ不飽和脂肪酸」含有値を測定するなど新たな取り組みもはじまっていますが、それらがどの程度食味に影響するのかはまだ研究段階です。

 

少しずつ明らかになってきていることもある一方、私自身も含め、偏った知識で頭でっかちになってしまったり、誤った情報を拡散してしまう場合もあるかと思います。

 

そうした時、キタメシさんのように、純粋にお肉を愛し、お肉について深く学ばれて、情報発信をされている方と共に切磋琢磨していくことで、原点を忘れず、生産者から消費者まで、和牛に携わる人の幸せにつながっていけるよう一緒になって取り組んでいきたいと思います。

 

これからもよろしくお願いいたします!

 

 

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