【インタビュー】“レストラン焼肉”で感動の連鎖を生み、和牛の価値を最大化する|『焼肉きたん』オーナー竹下弘行さん

『焼肉きたん』オーナー竹下弘行さん

竹下弘行さん

2022年4月。心斎橋にほど近い南船場で人気の『焼肉きたん』が新たなチャレンジをされました。難波のド真ん中に全40席完全個室の『焼肉きたん法善寺店』をオープン。さらにその1階にカウンター10席1日10人限定の『焼肉きたん韻(いん)』をオープン。コロナ禍で飲食店が苦戦する中、一気に業態を拡大されました。

 

 

今回はそんな『きたん』のオーナー竹下弘行さんのインタビュー記事をお届けします。大阪では高価格帯の部類に入るにもかかわらず、これだけたくさんの店舗でたくさんの人を魅了し続けられるのはなぜなのか。食べに行くだけでは知り得ない真髄を取材しました。取材を通して見えてきた竹下さんの和牛への想い。そして、焼肉屋としての矜持をお楽しみください。

 

 

焼肉でも肉割烹でもない“レストラン焼肉”

「笑顔・驚き・感動を提供する」

 

 

『きたんグループ』が掲げるスローガン。生みの親はもちろんオーナーの竹下さん。飲食店として「おいしい」を届けるのは当たり前。その先の価値を提供してこそ飲食店だという信念が込められている。このような言葉を掲げるお店はたくさんあるが、徹底的に体現しているお店は数えるほどしかない。

 

 

「どれだけいい食材を使っても、どれだけいい味付けをしても、それ単体では感動は生まれません。味、盛り付け、お皿、カット、接客、内装。全てを満たして初めて感動は生まれます。料理が出てきた時に思わず笑顔になる。口に入れた時のおいしさに驚く。接客をはじめとする心地のいいサービスを受ける。そんな体験を通して感動は生まれていく。そしてその対価としてお金をいただくのが飲食店だと思っています」

 

 

 

焼肉きたんに行ったことがある人は、竹下さんの言葉にうなづいているのではないだろうか。サービスを通して満足度が高まり、帰る頃には感動しているのがきたんクオリティ。お肉の切り方や盛り付け方には写真に収めたくなる美しさがある。洗練された世界観の内装には非日常を感じる力がある。「焼肉を食べに行く」というよりも「焼肉を通した特別な体験をしにいく」感覚に近い。

 

 

「きたんは焼肉でも肉割烹でもありません。おいしいのその先を提供するために、味はもちろん、他のことにも徹底的にこだわります。接客、内装、料理やお酒のプレゼンテーション、スタッフのユニフォームまで。全てにこだわりを込め、レストランのような特別な時間をお届けするのがお店のテーマ。“レストラン焼肉”というジャンルと定義しています」

 

 

取材でお聞きしたこだわりの中でも興味深かったのは、女性スタッフのユニフォームだ。街中を歩いているエステティシャンからヒントを得たという。エステティシャンはユニフォームのままランチに出かけている。“そういうものだ”と片付けてしまいそうな様子に竹下さんはピンと来た。

 

 

「ユニフォームのまま外出しているのは、ユニフォームがオシャレだと思えているからです。対して、飲食店の女性スタッフがユニフォームのまま外出しているシーンは見たことがありません。きたんはすぐに女性スタッフに似合うおしゃれなユニフォームを導入しました。そういう細かいところへのこだわりがスタッフのモチベーションに繋がり、サービスの質向上につながるんです。日常に転がっているヒントに気が付けるようアンテナを張り、いいと思ったらすぐに取り入れるスタンスを何より大切にしています」

 

 

「会社の倒産」がきっかけだった

そんな竹下さんの生まれは宮崎県。牛、鳥、豚を育てる繁殖農家に生まれた。繁殖できる環境を整え、健康な子どもを産ませ、肥育農家に売買する家業。そんな環境で育ったからか、子供の頃から料理が大好きだった。休日には家族の朝ごはんを作るのが日課だった。ほかにも絵を書くことや造形物を組み立てることが得意なクリエイター気質な子供だったという。

 

 

「高校時代はサッカーに熱中し、大学には行かず、料理人の道へ進みました。最初から独立したワケではなく、ビストロでフレンチシェフとして経験を積むことになります。当初は“作りたいものを作れればいい”というスタンスでした。でも、親族や友人たちが育てた食材の価値を高めたいという使命を少しずつ持つようになったんです。料理に対する向き合い方に変化が起きていたその頃、ある出来事が起きました。その出来事がきっかけで、現在まで大切にする価値観が芽生えることになります」

 

 

「ある出来事」とは、竹下さんが料理長兼取締役として携わっていた会社が倒産したこと。竹下さんが経営していたワケではなく、倒産は退職後の出来事だったが、重要なポジションを担っていた責任を重く受け止めた。料理を提供するだけではダメ。料理を通して感動を届けないと長く愛されるお店は作れない。長く愛されないと、好きな料理を続けることはできないと痛感したのだ。

 

 

「あの出来事からきたんが生まれたと言っても過言ではありません。お客様がお店で過ごす2、3時間で感動を届けるために全力を尽くすこと。一度感動を覚えたお店であれば、多店舗展開をしたとしても来ていただけます。逆もしかり。一度ガッカリしたお店がどれだけ人気になろうが、店舗を増やそうが、わざわざ行きませんよね。数時間で感動を届ける。その感動がまた違う人にとっての感動を生み出す。そんな感動の連鎖を生み出して初めて愛されるお店ができるんです」

 

 

「倒産」という大きな失敗と、その失敗から学んだことが、長く愛されるきたんのルーツとなっている。

 

 

ブランド牛だけじゃない和牛の魅力を知ってもらいたい

接客やサービスなど“肉以外”の魅力を伝えてきたが、焼肉きたんは、言うまでもなくお肉へのこだわりも突出している。中でもピックアップするなら“ブランド至上主義ではない”ということ。松坂牛や宮崎牛といったトップブランド牛はもちろん使用しているが、加えて出産を経験した『経産牛』も積極的に使用。「熟成」という武器を使ってそのポテンシャルを最大化している。

 

 

「ブランド牛にはブランド牛のおいしい食べ方があるように、経産牛には経産牛のおいしい食べ方がある。それぞれの強みを正しく理解し、適切な方法で調理し、お届けすることが大切です。そうすることで、トップブランド以外の牛が過小評価されている日本の風潮を変えていきたい。変えていけば、和牛の価値はもっともっと上がっていくと信じています。」

 

 

和牛の本質的な価値を見定め、本質的な料理やサービスで感動を提供するのが焼肉きたんブランドであり、竹下オーナーの信念。深く、ブレない信念があるからこそたくさんのファンがいるのだと、このインタビューを通して痛感した。そんなきたんは今後どんなチャレンジをしていくのか。聞くと、「無作為に店舗を拡大するつもりはありません」という回答があった。

 

 

「“笑顔・驚き・感動を与える”という使命に沿った新しい挑戦を続けていきます。その手段は焼肉店じゃないかもしれないし、飲食店ですらないかもしれない。例えば、牛革を使ったアパレルショップ。財布やスマホケースなど牛革のアイテムはブームになっているので挑戦する可能性は十分にあります。ブレない信念のもとで新しい価値を生み出し、届けていきたいと思っています。」

 

 

感動の連鎖はどこまで広がっていくのか。これからが楽しみで仕方ない。(終わり)

 

 

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